「組織をどう変えていくか」を考えるとき、多くの場合、「今の課題をどう改善するか?」という発想からスタートします。しかし、ベンジャミン・ハーディが語るのは、少し違う方向です。
「過去や現在から考えるのではなく、未来の自分(Future Self)から今をデザインする」という視点です。この記事では、その考え方をベースに、日本の組織向けに再構成した5ステップの「組織の未来設計フレームワーク」を紹介します。
焦点は「意志の強さ」ではなく
・どんな未来を描くか
・どんな役割を設計するか
・どんな環境と測り方をつくるか
に置かれています。
ベンジャミン・ハーディのエッセンスを三つに整理する
前提となるハーディの考え方を、シンプルに三つにまとめておきます。
- 人は「意志」ではなく「環境」で変わる
我慢や根性ではなく、「そうせざるを得ない環境・仕組み」のほうが人を動かす。 - 過去ではなく「未来の自分」から今を決める
今の性格や経歴で自分を縛るのではなく、「なりたい自分」を決め、その人として行動し始める。 - 理想とのギャップではなく「得られたゲイン」を見る
「まだ足りない」ではなく、「どれだけ進んだか」で自分や組織を評価する。
この三つを「個人」だけでなく「組織」に適用する形で設計したのが、これからのフレームワークです。
フレームワークの全体像
フレームワークは、次の五つのステップで構成されています。
- Contextualize Future(MVVの超解像度化)
- Define Functions & “Who”(機能定義とWhoの選定)
- Align Future Selves(未来の同期)
- Design “Forcing Functions” & Environment(環境設計)
- Measure the “Gain”(前進の測定)
順番に進めることで、
・未来像
・役割設計
・個人の未来
・環境と制約
・進捗の測り方
がひとつの流れとしてつながる構造になっています。
1. Contextualize Future(MVVの超解像度化)
最初のステップは、「3年後の組織の姿」を、映像が浮かぶレベルで描き出すことです。
・売上や社員数だけではなく
・会議室でどんな会話が交わされているか
・顧客との関係がどう変化しているか
・メンバーがどんな表情で働いているか
といった「シーン」まで言語化していきます。
ここで重要なのが、あえて「少し無理では?」と感じるレベル、つまり10倍の未来を置くことです。2倍の未来だと、どうしても今の延長線上の工夫に落ち着いてしまいます。10倍を前提にすると、「今のやり方を温存したままでは届かない」という前提が自然と生まれます。
イメージを広げる問いの例
・3年後、理想的な一日を映像に撮るとしたら、そこにはどんなシーンが映っているか
・そのとき、顧客は自社のことをどんな言葉で語っているか
・メンバーは自社で働くことを、家族や友人にどう説明しているか
こうした問いから、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を「超解像度化」していきます。
2. Define Functions & “Who”(機能定義とWhoの選定)
未来の映像が見えてきたら、その状態を支えている「機能」を洗い出します。
・プロダクト開発
・マーケティング
・採用・オンボーディング
・顧客成功・サポート
・データ分析
・ブランド構築
・組織開発・人材育成
など、未来のシーンを実現するために必要な機能を書き出していきます。
ここで大事なのは、「今の組織図から考えない」ことです。未来から逆算して機能を定義し、そのうえで次の問いを重ねていきます。
・この機能を担うのに最適な「Who」は誰か
– 既存メンバーか
– これから採用すべき人か
– 外部パートナーや専門家か
さらに、
・自社のコアとして絶対に内製すべき機能はどれか
・外部と組んだ方が10xクオリティになる機能はどれか
・もう手放してよい機能はないか
という視点で整理していくと、「未来の組織の役割地図」が見え始めます。
3. Align Future Selves(未来の同期)
3つ目のステップでは、メンバー一人ひとりの「3年後の未来像」に焦点を当てます。
・どんなスキルを身につけていたいか
・どんな働き方やライフスタイルを望んでいるか
・どんな貢献ができていたら誇らしく感じるか
こうした未来像を、対話やシートなどを通じて引き出していきます。
そのうえで、
・組織の3年後の姿(ステップ1で描いた未来)
・個人のFuture Self
この二つが重なる部分を探します。
ここが、その人にとっての「Win-Winゾーン」になります。
例えば、
・組織としては「顧客との共創を増やしたい」
・個人としては「ファシリテーションや場づくりのスキルを伸ばしたい」
という場合、共創ワークショップの設計・運営といった役割が、両者の重なりになります。
ここで大切なのは、「会社のビジョンに合わせなさい」と迫るのではなく、「個人の未来の物語の中で、この組織がどんな意味を持ちうるか」を一緒に探す姿勢です。
4. Design “Forcing Functions” & Environment(環境設計)
方向性と役割が見えてきたら、次は「環境」と「制約」を意図的に設計します。ここでは、次のような要素を組み込みます。
・戻れない地点(Point of No Return)
– 3ヶ月後のローンチ日を決めて社外発表する
– 社内外の人を招いた発表会・イベントの日程を先に確定する
・締め切りやマイルストーン
– いつまでに何を「外に見せる形」にするのかを区切る
さらに、人間関係も環境として設計します。
・基準の高い外部メンターとの定期セッション
・他社の先進事例に触れる勉強会
・同じ志向性を持つパートナー企業とのコラボレーション
こうした「Forcing Function(やらざるを得ない状況)」と「豊かな環境」を組み合わせることで、
意志力ではなく、構造の力で未来に引っ張られる状態を形にしていきます。
5. Measure the “Gain”(前進の測定)
最後のステップは、「進捗の測り方」を変えることです。多くの会議では、
・理想や目標に対して、どれだけ足りていないか(ギャップ)
が中心になります。これは必要な視点ですが、それだけだと「いつも足りない」という感覚が続きがちです。
そこで、次のような運営ルールに切り替えます。
・定例では必ず「先週からの前進(ゲイン)」を報告する
・数値だけでなく、「行動の変化」「学び」「小さな改善」もゲインとして扱う
例えば、こんなフォーマットです。
- 先週からの前進を3つ挙げる
- その中で「いちばんFuture Selfらしかった行動」を1つ選ぶ
- 来週、その延長線上で試したいことを1つだけ決める
こうした「ゲインの測定」を続けることで、
・自分たちはちゃんと前に進んでいる
・組織としても、描いた未来に近づいている
という感覚が、メンバーの自己認識と結びついていきます。
フレームワークのまとめ
ここまでの五つのステップを、あらためて整理します。
- Contextualize Future
3年後の組織の姿を、映像が見えるレベルで言語化し、あえて10xの未来を置く。 - Define Functions & “Who”
その未来に必要な機能を洗い出し、「今の組織図」ではなく「最適なWho」から役割を設計する。 - Align Future Selves
メンバー一人ひとりのFuture Selfを聞き取り、組織のMVVとの重なりを「Win-Winゾーン」として言語化する。 - Design “Forcing Functions” & Environment
戻れない地点や締め切りを設計し、基準の高い外部との接点も含めて、成長せざるを得ない環境をつくる。 - Measure the “Gain”
理想とのギャップだけでなく、前進(ゲイン)に光を当てる定例運営を行い、自己効力感とアイデンティティを育てていく。
ベンジャミン・ハーディの理論を土台にしつつ、組織の未来設計にフォーカスした形にまとめると、このような流れになります。
実際に取り組むときに立ちはだかる難しさ
ここまで読むと、「やること自体はシンプル」に見えるかもしれません。
ただ、実際の組織で取り組もうとすると、かなり具体的な難しさが立ち上がってきます。例えば、次のようなものがあります。
・日々の業務に追われて、3年後をゆっくり描く時間が取れない
・今の組織図や権限構造を前提にしてしまい、思い切った役割設計に踏み込めない
・メンバーが「本音の未来像」を安心して語れる心理的安全性がまだ弱い
・管理職側が「Future Self」という概念に慣れておらず、うまく対話をリードできない
・会議文化が「課題の指摘」と「詰めること」に寄っていて、ゲインを見る習慣が根付いていない
フレームワーク自体はシンプルでも、
・場の設計
・対話のファシリテーション
・言語化のサポート
・利害の調整
といった要素が絡み合うため、内側のメンバーだけで始めると、どうしても既存の空気や力学に引き戻されやすくなります。
外部人材が入るからこそ生まれる可能性
こうした難しさがあるからこそ、外部の人材が関わることで開ける可能性があります。例えば、外部ファシリテーターや伴走者は、次のような役割を担うことができます。
・「今の延長」ではなく「未来から逆算する」視点を保ち続ける
・経営層と現場の間に立ち、それぞれの言葉を翻訳しながら対話を整理する
・社内では口に出しづらい違和感や葛藤を拾い、言葉にしていく
・Forcing Functionやマイルストーンを現実的かつ挑戦的な水準で設計する
・会議の進め方そのものをデザインし、ゲインを見つける習慣が根付くまで一緒に回し続ける
また、外部だからこそ、
・既存の評価軸や上下関係に縛られない問いを投げかけられる
・他社の事例やパターンを踏まえつつ、自社ならではの形に翻訳できる
といった強みもあります。
フレームワークを「知っているかどうか」ではなく、「組織の文脈に合わせて、どれだけ丁寧に実装できるか」が問われるフェーズでは、外部の視点や専門性が大きな支えになります。
MEOMが支援できること
MEOMは、こうした未来設計や対話のプロセスを、外部の立場から支えることを専門としています。
・3年後の未来像を言語化するワークショップの設計とファシリテーション
・未来から逆算した機能と役割の整理、そして「Who」の検討プロセスの伴走
・メンバー一人ひとりのFuture Selfと組織のMVVを重ねていく対話セッションの設計
・Forcing Functionや環境設計に関するアイデア出しと、マイルストーン設計のサポート
・ゲインに注目する会議運営の型づくりと、初期の運用伴走
といった形で、フレームワークを「概念」から「具体的な実践」へと落としていくことを役割としています。
ベンジャミン・ハーディの理論を土台にしながら、それぞれの組織が持つ固有の文化や歴史を尊重しつつ、無理のないスピードで未来に向かって変化していけるように、外側から静かに支える存在でありたい──それがMEOMのスタンスです。この記事で紹介したフレームワークが、自社の未来をあらためて見つめ直すきっかけとして、少しでもお役に立てば幸いです。
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